
会計/税理士事務所では、法人や個人の会計処理や税務に関するサポートをおこない、経営や資産運用を支えています。しかし、具体的な仕事内容や役割について詳しく知る機会は少なく、漠然としたイメージを持っている方もいるでしょう。
この記事では、会計/税理士事務所の仕事内容を中心に、主な業務内容や年間スケジュール、職種ごとの役割について解説します。本記事を通じて、会計事務所の全体像を理解し、自分に合ったキャリアの選択に役立ててください。
会計/税理士事務所とは?

会計/税理士事務所は、公認会計士や税理士資格を有している人が開業・運営しており、クライアントのお金に関する会計や税務の専門家としてのサービスを提供する役割があります。事務所の規模やサービス内容は多様で、中小規模の事務所が多いのが特徴です。ここでは、会計事務所と税理士事務所の違いや市場規模について解説します。
会計事務所は俗称
会計事務所は一般的な呼称です。税理士法第四十条2項では「税理士が設けなければならない事務所は、税理士事務所と称する」と明記されています。多くの事務所が「会計事務所」と称しているのは、税務以外にも幅広いサービスを提供できることを示唆しているためです。会計事務所と税理士事務所はほぼ同じ意味で使われていますが、それぞれの違いを理解しておくと良いでしょう。
会計事務所や税理士事務所のクライアントは法人だけでなく個人も含まれ、会計処理や決算書作成、税務申告などの幅広い業務を請け負います。
また、税理士事務所を設立するには最低1名の税理士がいれば問題ありませんが、規模が大きい税理士法人を設立する場合には、税理士が最低2名以上必要です。
出典:税理士法
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会計/税理士事務所の市場
令和6年12月末時点で登録されている税理士登録者数は、全国で81,570人です。令和3年の経済センサスによれば、会計/税理士事務所の事業所数は32,246ヶ所あります。1〜4人までのところが20,017ヶ所と最も多く、全体の大半が中小規模の事務所であることがわかります。
出典:
日本税理士会連合会「税理士登録者数」
令和3年経済センサス-活動調査「事業所に関する集計」
会計/税理士事務所の業務内容

会計/税理士事務所では、記帳代行や決算業務、税務申告、税務調査への対応など、多岐にわたる業務を通じてクライアントの経営をサポートしています。税務や会計の専門知識を活かした信頼性の高いサービスは、企業や個人事業主にとって欠かせないものです。会計/税理士事務所がおこなっているそれぞれの仕事内容を詳しく解説します。
記帳代行
記帳代行は、クライアントの帳簿作成を代行する業務です。領収書や請求書、通帳のコピーなどの資料をもとに会計ソフトへ仕訳を入力していきます。頻度は取引量によって異なり、毎月1回から随時対応まで柔軟におこないます。
記帳代行は会計/税理士事務所の主要業務であり、正確性とスピードが求められます。最近ではクラウドツールを活用した効率化も進んでいる業務です。
決算業務
決算業務は日々の記帳代行で作成された会計帳簿をもとに、損益計算書や貸借対照表といった決算書類を作成します。企業が1会計期間(通常1年度)を締める際に実施される大事な業務です。
決算業務で作成した決算書類は、企業の財務状況や経営成績を正確に把握するために不可欠です。また、税務申告や融資申請に必要となるだけでなく、株主や投資家、取引先などの外部ステークホルダーに対して信頼性のある情報を提供する役割も果たしています。
普段発生しない取引や仕訳の入力ミスがある場合、帳簿と決算書の数字が合わないため、正確な決算書類を作成することができません。決算時には取引内容の確認だけでなく、記録を目視でチェックし、不備を修正することが求められます。また、決算業務は年度末に集中する傾向があるため、スケジュール管理が非常に重要です。
税務申告業務
税務申告業務は、決算書類をもとに税務申告書を作成し、納税額を確定する業務です。この業務は税理士の資格を有する専門家のみがおこなえる独占業務であり、税務書類の作成や代理申告、税務相談を含みます。税理士資格を持たない人が業務をおこなうことはできません。
申告書の作成にミスがあると、納税額が異なる可能性があり、クライアントに損失を与えるリスクが生じます。そのため、税務申告書には税理士の氏名が記載され、業務の正確性に責任を負います。
税務調査の立会、税務署との折衝
税務調査が実施される際には、税務署とのやり取りを代行し、クライアントの利益を守ることも役割の一つです。税務調査は、適正な事業運営をしていても、数年に1度実施される場合があり、過去の帳簿や書類の確認が行われます。税務調査の際に専門的な質問や指摘を受けることも多く、クライアントだけでは対応に時間がかかる場合もあります。
税理士は専門知識や経験を活かしてリスクの軽減に努め、税務署との交渉を通じて双方が納得できる解決策を見つけます。
巡回監査業務
巡回監査業務は、クライアントを定期的に訪問して会計処理や税務の正確性を確認し、必要なサポートを提供します。クライアントが自ら行った会計処理にミスや問題がないかを確認し、必要に応じて改善策を提案することも業務の1つです。
また、訪問時には税務に関する相談を受けることもあり、日常的な経営支援の一環として活用される場面も少なくありません。巡回監査業務は、直接クライアントを訪問して実施することが一般的ですが、最近ではオンラインで行う事例も増えてきています。
コンサルティング業務
コンサルティング業務では、クライアントが抱える経営課題に対し、税務や会計の観点から具体的な解決策を提供します。決算書類の分析をもとに経営状況を把握し、適切な節税アドバイスや事業計画の立案も重要な業務です。
また、経営者への直接的な経営助言が必要になる場合もあります。国際税務やM&A、資金調達といった高度な分野に特化した事務所も存在し、幅広いニーズに対応しています。これらの業務はAIや機械では対応できないため、会計・税理士事務所は経営者にとって欠かせない存在です。今後も複雑化するビジネス環境や市場の変化に対応するために、コンサルティング業務の需要は高まってくるでしょう。
その他業務
会計/税理士事務所では、給与計算代行や年末調整、確定申告といった多様な業務をおこない、クライアントの経理業務を効率化しています。
給与計算では毎月勤怠データをもとに正確な給与額を算出し、明細を作成します。通常11月から12月におこなわれる年末調整では、従業員の税額を適切に処理し、源泉徴収額の精算をおこなうことが欠かせません。確定申告業務は、個人事業主の必要書類をもとに所得税や法人税の申告書を作成し、税務署への提出までを代行します。
これらの業務を請け負うことで、クライアントは経理業務を効率化でき、本業に専念できる環境が整います。
クライアントによる提供サービスの違い

会計/税理士事務所が提供するサービスは、法人と個人のクライアントによって異なり、それぞれのニーズに応じた柔軟な対応が求められます。法人向けには基本的な事務業務から専門性の高い分野まで幅広いサービス、個人向けには税務に関する相談、資金計画のアドバイスなど幅広い支援が提供されています。法人・個人それぞれの具体的なサービス内容を見ていきましょう。
法人向け
法人向けのサービスでは、記帳代行や会計のサポート、決算業務、税務申告業務が中心です。
大規模なクライアントの場合、事業承継支援や国際税務、医療や建設業といった特定業種に特化した税務サービスを提供する事例もあります。多様なニーズに応えるため、専門的な知識や経験を磨く必要があるでしょう。特に大手税理士法人であれば、大規模な企業をクライアントにすることも多く、チーム体制で専門的なサービスを提供するケースもあります。
一方で、中小規模のクライアントの場合は、経営層と直接やり取りすることが多く、税務以外にも経営全般に関するアドバイスなど幅広い業務に取り組んでいます。一人のスタッフがクライアント専任の担当者として、企業の成長を支援する重要な役割を担うことも少なくありません。
個人向け
個人向けのサービスは、確定申告や相続・贈与に関する税務相談、会計サポートなど多岐にわたります。税務署への申告内容のミスが延滞税や加算税のリスクにつながるため、税理士のアドバイスを受けることで、適切な申告が可能になります。
個人の資金計画やライフプランニングのサポートにも状況に応じて対応します。税務以外のアドバイスも含まれることから、従業員はファイナンシャルプランナー(FP)の知識を併せ持つといったダブルライセンスがあると、信頼性が高まります。
関連記事:税理士のダブルライセンスとは?役に立つおすすめな資格やメリットを解説
会計/税理士事務所の職種

税務や会計に携わるさまざまな職種があり、それぞれが事務所の運営を支えています。税理士は事務所の中心的存在として専門業務を担うのはもちろん、税理士補助や税務スタッフ、一般スタッフも事務所運営の基盤を整えるのに欠かせない存在です。ここでは、職種の具体的な業務内容について詳しく解説します。それぞれの役割を知り、事務所の全体像を見ていきましょう。
税理士
税理士は、会計/税理士事務所の中心であり、税理士事務所の所長やオーナーとして活動する場合には、税理士登録が必須です。税理士には、税務代理、税務書類の作成、税務相談の3つの独占業務が法律で認められており、税務申告や申請、請求業務を行うことができます。クライアントとの直接的な相談を通じて、企業や個人が抱える税務上の課題を解決する役割も担っています。
関連記事:税理士とはどんな仕事?業務内容や魅力、働き方をわかりやすく解説!
税理士補助・税務スタッフ
税理士補助や税務スタッフは、税理士の業務をサポートする重要な役割を担っています。スタッフには、税理士試験の科目合格者や実務経験を積みながら働く人も多くいます。
業務内容は税務署に提出する書類や申告書の作成補助、記帳代行を行うほか、税務相談以外の経営上の相談にも応じることがあります。税理士補助・税務スタッフの存在はクライアントとの関係を築く上で欠かせません。
関連記事:税理士補助とは?仕事内容や税理士登録に必要な実務経験についても解説!
一般スタッフ
一般スタッフは、事務所内で総務や事務作業を担当し、税務や会計業務に直接関与することは少ないですが、事務所運営を支える重要な存在です。一般企業の事務作業と同様の業務が行われ、アルバイトやパートとして募集されることもあります。事務所の日常業務を円滑に進めるための基盤をつくり、事務所の運営を支えます。
会計/税理士事務所の年間スケジュール

会計/税理士事務所では、決算業務や税務申告が集中する繁忙期と、比較的落ち着く閑散期がはっきりと分かれています。特に11月から翌年5月は年末調整や確定申告が重なり、忙しさがピークに達します。一方で6月から11月は業務が落ち着き、スキルアップや業務改善に注力する時間が取れる時期です。ここでは、典型的な年間スケジュールや繁忙期の特徴について解説します。
年間スケジュール例
主な年間スケジュールは以下のとおりです。
1月 | 12月決算先の決算業務 |
2月 | 12月決算先の確定申告業務 |
3月 | 個人事業主の確定申告業務 |
4月 | 3月決算先の決算業務 |
5月 | 3月決算先の確定申告業務 |
12月 | 年末調整 |
一覧は12月と3月を決算の締め日としているクライアントが多い場合の一例です。一般的な会計事務所では毎年ほぼ同じスケジュールで業務がおこなわれます。ただし、コンサルティング業務が多い事務所では、期間が決まっている決算業務と異なり、決まったスケジュールがない場合も多くなるため、注意が必要です。
繁忙期は11月から5月
会計/税理士事務所の年間スケジュールは、一般的に11月から翌年5月が繁忙期、6月から11月が閑散期とされています。繁忙期には、3月決算の法人が多く、決算後2ヶ月以内の確定申告が集中するため、業務量が増加します。
また、12月には年末調整が始まるため、その準備期間として11月から業務が忙しくなり、確定申告が重なる2~3月がピークです。個人事業主が多い事務所では、この時期が特に繁忙期となります。
繁忙期には残業や休日出勤が多くなる傾向があり、事務所としても正確かつ迅速な対応が求められます。一方で、閑散期となる6月から11月は比較的業務が落ち着き、自己研鑽や業務プロセスの改善、新しいスキルの習得に時間を充てることが可能です。
まとめ

会計/税理士事務所の仕事内容は、公認会計士や税理士資格を有している人が、法人や個人の税務・会計を専門的にサポートするサービスを提供しています。記帳代行や決算業務、税務申告といった基本業務から、経営コンサルティングや税務調査対応まで幅広いサービスを提供し、クライアントの課題解決を支援しています。
また、会計/税理士事務所の業務内容や年間スケジュールを理解することで、この業界での働き方や求められるスキルがイメージしやすくなるでしょう。会計/税理士事務所へ就職を目指す時の参考にしてみてください。