公認会計士に必要な実務経験とは?経験を積める場所や内容、実務補習・修了考査についても解説!

2024年6月4日(記事更新日:2024年6月4日)

公認会計士となるためには、公認会計士試験の合格だけでなく、3年間の実務経験を積まなければなりません。
そこで今回は、公認会計士になるため必要となる、実務経験について解説いたします。

公認会計士になるために必要な実務経験とは

公認会計士になるためには、試験の合格と3年間の実務経験、実務補助制度及び終了考査が必要です。
実務経験は「業務補助」と「実務従事」の2種類に分けられます。これら両方を経験している場合は、期間の通算も可能です。なお実務経験は公認会計士試験合格前の経験も合算できます。

業務補助

監査証明業務において、公認会計士や監査法人を補助すること、とされています。
公認会計士試験合格者の8割は監査法人に就職すると言われていますので、多くの人が業務補助にて実務経験を積むことになるでしょう。
基本的には1年につき2社以上の監査証明業務を実施しなければなりません。
ただし、金融商品取引法の規定により公認会計士や監査法人の監査証明を受けなければならない会社、または会社法に規定する会計監査人設置会社の監査証明業務であれば、1年につき1社以上で構わないとされています。
勤務形態は常勤でも非常勤でも問題ありません。時短勤務であろうとパート社員であろうと、該当の業務を実施していれば業務補助の期間に積み上げられます。
単純な経理や記帳といった作業は業務補助の対象外です。

実務従事

財務に関する監査、分析等の業務に従事すること、とされています。
こちらは事業会社等に所属し、法令で定められた業務を行なっていたかを個別で判断されます。一般企業や地方公共団体等で働いている人が選択する実務経験です。
実務従事として認められる具体的な範囲は、公認会計士施行令第2条に規定される以下の業務です。

国又は地方公共団体の機関において、国若しくは地方公共団体の機関又は国及び地方公共団体以外の法人会計に関する検査若しくは監査又は国税に関する調査若しくは検査の事務を直接担当すること
預金保険法(昭和四十六年法律第三十四号)第二条第一項に規定する金融機関、保険会社、無尽会社又は特別の法律により設立された法人貸付け、債務の保証その他これらに準ずる資金の運用に関する事務を直接担当すること
前号に掲げるものを除くほか、国、地方公共団体又は国及び地方公共団体以外の法人原価計算その他の財務分析に関する事務を直接担当すること

実務従事では実務経験と認められるかを個別判断されるため、実務経験不足とみなされるケースもあるようです。

出典:公認会計士法施行令第2条 

実務経験の期間

これから公認会計士の実務経験を積む場合は3年以上が必要です。
この3年という期間は、365日×3年間ではありません。認定される日数は業務補助と実務従事で変動します。
業務補助の場合:1週間あたりの日数等の定めはありません。監査法人等の代表が認めれば良いとされています。
実務従事の場合:常勤で3年が基準です。非常勤やパート、アルバイト等で勤務日数が常勤社員よりも少ない場合は、常勤社員の勤務日数を元に計算します。たとえば勤務日数が常勤の半分だった場合、3年経過後の実務経験積み上げ日数は1.5年分になります。

実務経験の期間は令和5年(2023年)4月1日より、2年以上から3年以上に変更されました。そのためこれから実務経験を積み上げる場合は、最低でも3年間の実務経験が必要です。
しかしながら令和5年4月1日時点で2年以上の実務経験がある場合、さらに1年間の実務経験を積む必要はないという経過措置が取られています。仮に公認会計士試験合格前、令和5年4月1日以前に実務経験を2年以上積んできたならば、追加の実務経験は不要です。

公認会計士になるための実務経験を積める職場

実務経験として認定されるためには、職場も選ばなければなりません。本項では実務経験が積める職場と、実務経験となる業務をそれぞれ紹介いたします。
なお実務従事として認められるかどうかは個別に判断されますので、下記に該当したとしても実務経験と認められない可能性もあります。不安な場合は金融庁等に問い合わせてください。

監査法人

一般的に、多くの公認会計士試験合格者が監査法人で実務経験を積みます。
「業務補助」と「実務従事」の両方が経験できるため、今後、公認会計士として働く予定なら監査法人で実務経験を積むのが良いでしょう。
なお公認会計士又は監査法人が行う財務書類の監査証明業務(公認会計士法第2条第1項業務)に係る業務補助であれば、法定監査に限らず任意監査であっても実務経験として認められます。

参考:公認会計士法第2条 

会計/税理士事務所や税理士法人

会計事務所や税理士法人の一部でも、公認会計士の実務経験が積めます。税理士法人等での実務経験は「実務従事」です。
ただし会計監査のサービス、または資本金5億円以上の法人を対象にした会計業務等を行っている必要があります。法人の税務申告等の税務業務は、実務経験に該当しません。

コンサルティング会社

コンサルティング会社でも実務経験は積めます。資本金5億円以上の法人等の原価計算・財務分析に関する事務に関しては「実務従事」として認められます。資本金5億円未満の法人等の財務分析等は実務経験に該当しませんのでご注意ください。
なお所属するコンサルティング会社の資本金が5億円未満でも問題ありません。財務分析を実施する法人の資本金が問われます。

一般企業

資本金5億円以上の一般企業の経理部や税務部等で財務分析に関する事務業務を行なった場合は「実務従事」としてカウントできます。たとえば決算に関する業務、予算に関する業務、工場の経理に関する業務、財務分析に関する業務、株式公開準備に関する業務等です。
一般企業に就職・転職して実務経験を積むのならば、資本金と業務内容を必ず確認しておきましょう。

金融機関や保険会社

貸付や債務保証等の業務が「実務従事」に該当します。
具体的には、銀行における法人融資の業務、保険会社における資産運用のための各企業の財務内容調査の業務、保険会社における投融資審査、社内格付付与、業界レポート作成の業務等です。
しかし金融機関も保険会社も上記以外の業務を幅広く実施しているため、配属部署や業務内容によっては実務経験が積めない恐れもあります。転職・就職する前に、業務内容をよく確認しておきましょう。現在金融機関等に勤めている場合は、実務経験が積める部署に転換できないか相談してください。

公務員

税務調査や監査業務が「実務従事」に該当します。
国税庁における税務調査、都道府県庁における市区町村の財務監査、市役所における地方公営企業に係る決算書類作成業務や財務諸表の分析に関する業務等です。
これから公務員となり実務経験を積むならば、公務員試験に合格し、該当業務が経験できる部署に配属される必要があります。

実務経験を積む上での注意点

実務経験を積む際には以下の点にご注意ください。

監査法人で働いても実務経験にカウントされないことがある

業務補助や実務従事に該当しない業務に関しては、監査法人であっても実務経験にカウントされません。たとえば監査業務に携わることなく、書類の整理や記帳等を行なっていたならば、たとえ監査法人に所属していたとしても実務経験とは認められません。

時短労働者やパート、アルバイト等はフルタイムの労働時間から算出

パートやアルバイト等の短時間労働者の場合は、フルタイムで働く従業員の時間に応じて実務経験日数がカウントされます。仮に、フルタイム従業員が1日8時間働いている企業で、1日4時間の実務経験に携わった場合、0.5日分の実務経験を積んだことになります。

業務補助等証明書の発行が必要

業務補助等証明書とは、業務補助等報告書と共に金融庁に提出する書類です。業務補助や実務従事を行った法人等の代表者が発行するもので、業務補助等を行った期間や概要を記入します。
実務従事の場合は報告書・証明書に加えて、以下の資料も添えて提出します。
1.従事した法人等の概要が分かる資料
2.直接担当していたことが確認できる資料
3.労働時間数が確認できる書類(短時間労働者のみ)

出典:金融庁 公認会計士の資格取得に関するQ&A 

実務補習制度・修了考査とは

公認会計士として登録するには、実務経験だけでなく、実務補習を修了し内閣総理大臣の確認を受けなければなりません。

実務補習制度とは

公認会計士試験に合格した者に対し、公認会計士となるのに必要な技能を修習させることが目的です。対象は公認会計士試験合格者で、金融長官が認定する実務補習団体等で受講します。

<実務補習の内容>
1.会計に関する理論及び実務
2.監査に関する理論及び実務
3.経営に関する理論及び実務
4.税に関する理論及び実務
5.コンピュータに関する理論及び実務
6.公認会計士の業務に関する法規及び職業倫理

<実務補習の単位数等>
・実務補習講義
 1学年:180単位以上
 2学年:40単位以上
 3学年:20単位以上
 かつ3年間で270単位以上

・考査
 修了考査とは異なる考査
 3年間で10回実施される考査全てを受験し、合計60単位以上かつ各考査で4単位以上修得

・課題研究
 3年間で6回報告書を提出
 合計36単位以上かつ各回4単位以上修得

出典:一般財団法人 会計教育研修機構 受講のガイドライン・各種手続き 

<実務補習のポイント>
実務補習は東京・東海・近畿・九州の4地域で実施されており、平日の夜や土日に実務補習所及びeラーニング等で講義を受けます。一部では土曜クラスも設けられていますので、平日に受講できない人はご利用ください。
実務補習を受ける前に業務補助や実務従事の経験が3年以上ある場合、修業年数を1年に短縮できます。また1学年目終了時に業務補助や実務従事の経験が3年を経過する場合、修業年数を2年に短縮できます。短縮を希望する場合は所属する実務補習所へ申請書等を提出しましょう。
実務補習を受ける前に実務経験がない場合は、3年間の実務補習を受けて修了考査に合格してから実務経験を積むこともできます。

修了考査とは

実務補修の内容全体について適切な理解がなされているかどうかを確認するために実施されるものです。前項の3年間の実務補習を受講し、要件を満たした時に受験できます。

<修了考査の内容>
受験科目:会計・監査・税・経営(コンピュータ含む)・公認会計士の業務の5科目
試験時間:1〜3時間の合計12時間
試験日程:2日間 通常は12月第2週目の土日に実施
試験方法:すべて筆記
合格基準:基本的に総点数の60%。ただし1科目でも総点数の40%未満だった場合は不合格
2023年度終了考査合格率:対受験願書提出者合格率69.7%・対受験者数合格率76.4%

出典:日本公認会計士協会 令和5年度(2023年度)修了考査の合格発表について 

<修了考査のポイント>
公認会計士試験ほどではないものの、比較的難易度の高い問題が出題されます。無難に課題をこなして単位を取得しているだけでは合格できません。合格率は2023年度で約70%。つまり30%は不合格です。確実な合格を目指すならば、早いうちから学習に取り組みましょう。学習時間の目安は400〜600時間と言われています。実務補習は順調にいけば3年目の8月頃に完了します。修了考査は12月に実施されますので、この数ヶ月間を試験勉強に充ててください。
修了考査に不合格だった場合は公認会計士の登録ができません。しかし次回以降の再受験は可能です。受験回数や年齢の制限もありません。ただし再受験の回数が増えるほど合格率は下がると言われていますし、試験自体は年1回しか実施されません。

<修了考査に合格したら>
実務経験を3年以上積み上げ、修了考査に合格したら、公認会計士名簿への登録手続きを実施しましょう。
日本公認会計士協会に必要書類を提出し、登録審査会の審査を受けます。
必要書類は膨大で取り寄せに時間がかかるものも含まれます。早めに準備してください。また登録免許税法により、公認会計士として登録する際には6万円の登録免許税が必要です。税務署または金融機関、郵便局で納付し、領収書原本を必要書類に貼り付けて送付します。
審査に通過すれば公認会計士名簿に登録され、晴れて公認会計士と名乗れるようになります。

まとめ

公認会計士になるには、公認会計士試験合格後、3年以上の実務経験と実務補習の修了、修了考査の合格が必要です。
ここまでの要件を満たして、公認会計士としての道を歩み始めることができます。試験合格から登録まで数年かかりますが、ここを乗り越えればあなたのキャリアは格段に広がります。

この記事の監修者

伊藤之誉

長野県長野市出身。慶応義塾大学商学部卒業。1998年に国内最大手の税理士事務所(現デロイト トーマツ税理士法人)に入社後、上場企業から中小企業まで多種多様なクライアントに対する申告書作成業務、税務調査立会など法人の税務全般業務に従事。連結納税や国際税務のコンサルティング、個人所得税の申告書作成、税務デューデリジェンス業務にも従事。執筆、外部研修講師なども経験。2011年に伊藤之誉税理士事務所を独立開業 。軽いフットワークを武器に難解な税法をわかりやすくお伝えし、経営者の皆様と共に成長し、喜びをわかちあえることを理想としています。

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