経理とは、会社で発生する日々のお金の流れや取引の詳細を記録・管理する仕事です。
また、すべての企業において必要な仕事で、経営の意思決定に関わる重要なポジションでもあります。
今回は経理の主な業務内容と経理の魅力や将来性についても解説します。会社規模や業種による経理の特徴を知り、キャリア形成の参考にしてください。
経理とはどんな仕事?
経理とは、会社内で発生する請求書発行や支払い業務、納税、減価償却費の計算などを行い、日々のお金の流れや取引の詳細を記録・管理する業務です。
経営者は保有している資産や売上、利益などの経営状態を把握し、今後の経営方針を決定します。
経理は日々の取引を簿記の方法を用いて、正確にお金の動きを把握しなければなりません。現在の財務状況を読み解き、経営層に対して経理が助言や提案をおこなうケースもあり、会社内でも重要なポジションといえます。
業務内容
経理の業務は主に「日次業務」「月次業務」「年次業務」の3種類に分類されます。会社の規模や業種によって異なりますが、一般的な業務内容をご紹介します。
■日次業務
日次業務とは、日々のお金の取引を記録・集計する業務です。業務例としては以下が挙げられます。
・現預金出納管理
・売掛金や買掛金の管理
・経費精算
・在庫取引の入力
・伝票記帳・整理
・支払い手続き
日次業務で記録・集計したデータは、決算書作成時の重要なデータです。毎日の多岐にわたる業務でミスや記載漏れがないように作業を行う必要があります。
1日の業務の流れは以下の通りです。
午前中 | ・現預金の出納管理(朝時点での手提げ金庫内の現金残高確認) ・普通預金の入出金確認 ・支払い手続き |
午後 | ・伝票記帳・整理 ・現預金残高の確認 ・経費精算 ・書類のファイリングや整理 |
日や時期によって、業務内容や業務の流れが異なる場合もあります。
■月次業務
月次業務とは、日々の金銭取引を毎月月末に一度締めて、1ヶ月分の収支を算出する業務です。業務内容は以下の通りです。
・給与や社会保険料の計算
・請求・支払い業務
・予算実績管理
・月次貸借対照表・損益計算書の作成
月次業務を行うことで、経営判断に必要な損益計算書や貸借対照表など月次決算書類を作成し、翌月以降からの経営の意思決定に活かします。
1ヶ月の流れは以下の通りです。(給与が20日締めの場合)
1日〜10日 | ・実地棚卸、在庫確認 ・売上(取引先)代金の請求・仕訳 ・月次決算 (1ヶ月間のお金の流れをまとめる) ・源泉所得税、住民税の納付(毎月10日頃) |
11日〜20日 | ・給与計算・振込準備 ・社会保険料計算 ・請求書の整理 ・仕入(取引先へ)代金の支払い・仕訳 |
21日〜末日 | ・伝票の整理、社会保険料の納付 |
■年次業務
年次業務とは、各官公庁へ申請するために、会社で発生する取引内容を年間単位で資料にまとめる業務です。業務内容は以下の通りです。
・社会保険料と労働保険料の申告
・四半期と年度の決算
・税金の計算と支払
・年末調整
・賞与計算・振込
・償却資産申告書
・株主総会の準備
・実地棚卸
経理で一番重要な仕事は、会社法などの定めにより1年に1回は実施することが義務付けられている期末決算です。
期末決算とは1会計期間の業績や財務状況などを表す書類を決算書にまとめます。なお、決算時期は会社によって異なるため注意が必要です。
1年間の流れは以下の通りです。(3月決算の場合)
4月 | 決算整理 |
5月 | 年次決算書の作成 |
6月 | 株主総会の開催、税務申告、各種税金の納付、賞与の計算・振込 |
7月 | 労働保険の年度更新、社会保険料の算定基礎届提出 |
11月 | 中間税務申告 |
12月 | 賞与の計算・振込、年末調整 |
1月 | 給与支払報告書 ・償却資産申告書 ・法定調書の提出 |
3月 | 年次決算の準備 (実地棚卸、固定資産の実物確認、減価償却費の計算チェックなど) |
経理と会計や財務との違い
経理と会計や財務は、同じお金を扱う業務ですが役割が異なります。それぞれの違いを解説します。
■経理と会計の違い
会計とは、経理が作成した日々のお金の報告書をもとに、お金の流れを会社全体で管理・記録する業務です。経理は金銭のやり取りを円滑に進める役割を担う一方、会計は資金の使途が適切かどうかを判断します。
会計は主に「財務会計」と「管理会計」の2種類に分けられます。財務会計は取引先などの利害関係者向けに業績や財務状況を作成・開示する会計です。管理会計は会社内の予算と実績の管理や原価計算など企業内部で分析するために必要な情報を管理します。
ただし、企業によっては経理と会計を明確に区分していない場合もあります。
■経理と財務の違い
財務とは、会社がこれから使う資金を銀行や株主から調達し、管理・運用をする仕事です。
経理が作成した決算書類や会社の事業計画書を元に、これから動かす予定のお金を把握し、主に銀行との融資交渉や資産運用のための投資やM&A(企業の合併・買収)を行います。財務は、今後会社にもたらす収益性と持続可能性を確保する戦略が重要な業務です。
会社規模や業種による経理業務の特徴
経理は会社規模や業種によって、担当する経理の仕事内容が異なります。会社の規模や業種によって異なる経理内容の特徴を解説します。
会社規模による業務の特徴
担当する会社の規模が大きくなれば、発生する取引数が増加し、仕訳作業や他の作業量も膨大になります。逆に規模が小さい場合、総務や人事など他の業務もまとめて1人で行うことも珍しくありません。
会社規模ごとの業務の特徴を解説します。
上場企業 | ・株主や債権者などに対して財政・経営状態を明らかにするといった財務会計が重要視されている ・四半期ごとの財務報告書類の作成(公正な財務状況及び利益配分の報告) ・連結決算(企業グループ全体を単一の組織体として決算) |
大企業/子会社を持つ企業 | ・経理専門部署で、担当者ごとに細かく業務が分担されている ・親会社と同等または親会社と同等レベルの業務内容 ・親会社の経理担当者とコミュニケーションが必要 |
中小企業 | ・従業員数が少ない企業であれば、担当者は1人や少人数 ・総務や人事、労務など複数の業務を兼任するため業務範囲が広い ・税務などは会計事務所に任せているところもある |
業種による業務の特徴
業種によりビジネスモデルが違うため、お金の管理方法や必要な処理が異なります。代表的な5つの業界について解説します。
小売業 | ・商品流通が多いため、仕入管理・実地棚卸・買掛管理が大切 ・取引業者が複数になることが多く、支払い業務が煩雑 |
製造業 | ・製造コストを管理するため、原価計算が必要 ・原価計算と予算の差を分析する |
建設業 | ・土地や建物など金額が大きいものを扱う ・案件着手から完了まで長期にわたる ・会計年度を跨いだ原価計算処理が行われることもある |
金融業 | ・市場の変動に敏感で、リスク管理や財務分析を重視しており、各種管理項目や経営に対して、厳しくチェックする ・業種特有の規制や会計基準にも精通していることが必須 |
外資系企業 | ・本国にある親会社の会計基準に従った財務諸表を作成する ・通貨を本国側に合わせて換算する ・海外と書類のやり取りをするため、外国語力が必要な場合がある |
経理の魅力・やりがい
経理は経営の根幹に関わる数字を扱うため、経営や企業の意思決定に近い業務に携われることが大きな魅力の一つです。様々な業界で通用する経理の仕事について、魅力・やりがいを解説します。
様々な業界で仕事に就ける可能性がある
会社で経営を続けるには決算を行うため、経理業務はすべての企業に存在します。経理が担う日々のお金の管理は、多くの業界で基幹的な役割を果たしており、経営の意思決定には欠かせない仕事です。
経理で行う日次業務の経費精算や現預金の管理は、1円単位まで細かく気を配る慎重さ、領収書や書類の整理整頓のスキルも役立ちます。業界を問わずに必要な業務です。
専門的な知識やスキルが身につく
経理は数字を正確に扱い、集計・記録・分析が必要であるため、会計や税務に関しての専門知識やスキルを身につけられます。学んだ専門的な知識やスキルを活かした組織のマネジメントや経営戦略などの業務、会社の税負担を最小限に抑えるための節税対策にも有効です。業務に関連する税法や業界特有の法律などは、改正に合わせて常に最新情報をアップデートし続けましょう。
経営や企業の意思決定に近い業務に関われ
お金を管理する経理は、会社の経営状態や財務状況を数字で把握するため、意思決定に近い業務に関われます。売上・利益の推移、資金繰りの状況、財務比率など決算書の分析結果だけでなく、会社の数字を通して、売上獲得に動く営業の動きや取引先の財務状況などを知る機会もあるでしょう。
経理で培った財務諸表を読み解く力を活かして、経営会議で経営改善に向けた提案も可能です。経理はお金の流れを把握しているため、会社の資産や利益を把握しやすいポジションにいるといえます。
幅広い部署の人の役に立てる
数字を扱うことが多い経理は、他の部署や外部の利害関係者とのやり取りが頻繁にあります。経理は財務諸表の数字を作る以外も、社内の予算計画を作成する際は、マーケティング部門や営業部門のニーズを理解し、それを数字に反映させることも大切です。また、複雑な財務報告時には、資料の中身をわかりやすく説明し、経営層が適切な意思決定を行えるように支援もします。
経理業務に活かせるスキルや資格
経理は様々な業界でも必要とされる汎用性の高いスキルです。今後経理の仕事でスキルアップや年収アップを狙うのであれば、紹介するスキルや経験を活かすか資格取得が効果的です。
これまでの身に着けたスキルや経験を活かす
経理は数字を扱うことに抵抗がない人やコミュニケーション能力がある人、PCスキル、ITリテラシーがある人に向いています。詳しく解説します。
■几帳面に数字を扱う能力
細かい数値のチェックや複雑な財務報告の作成が求められる経理は、数字を扱う能力が必要です。企業の資産状況を正確に把握し、適切な会計処理を行うには、数字が間違っていたら経営層が正しい判断ができないばかりか、損害賠償金を支払う事態にまで発展しかねません。
伝票を入力する際には、数字が出た背景や根拠、会社へどのような影響を与えるのかを理解した上で処理します。会社の利益に直結する経理は、几帳面に数字を扱う能力が必要です。
■コミュニケーション能力
経理には会社の数字に対する説明や予算計画などを作成する際に、他部署とのコミュニケーション能力も求められます。 経理は日々の業務を通じて数字が与える影響や根拠の読み取りは難くありませんが、他の部署ではわかりにくい場合もあります。
もし他部署から資料作成などの依頼を受けた場合は、作成したデータのやり取りだけではなく、データの意味や重要性を説明するなど丁寧な対応が大切です。支払いの管理や経費精算など期限や金額を把握し、遅延や過不足なく支払うことが求められるため、他部署との連携や情報収集・情報処理能力も必要です。
■PCスキル、ITリテラシー
経理業務ではパソコンを多用するため、エクセルや会計ソフトなどを操作するPCスキルが必要不可欠です。 会計ソフトの操作力が高いほど、財務データの入力や数字の分析を効率よく行えます。数多くのデータを取り扱うエクセルでマクロやVBAなどプログラミング知識があれば、業務の自動化が進み、時短にもつながるでしょう。税法改正やIT技術改革にも、PCスキルやITリテラシーがあれば柔軟に対応できます。
資格を取得・勉強した知識を活かす
経理業務を行う上で必須の資格はありませんが、活用できる資格には以下のようなものがあります。
日商簿記検定 | ・日次決算から年次決算など基礎 ・財務諸表を通した経営管理や分析力も身に付く |
FASS検定(経理・財務スキル検定) | ・経理・財務分野における客観的な知識やスキルを習得 ・経理・財務の実務に特化している |
ビジネス会計検定 | ・財務諸表が表す項目・数値を理解できる ・財務諸表に関する知識や分析方法が身に付く |
公認会計士 | ・独立した立場で、財務情報の信頼性を保証する監査・会計を行う専門家 ・短答式試験と論文式試験に通過する必要がある |
税理士 | ・税務申告や申請の代理や相談を独占して行える ・科目合格者は、会計や税務の必要な知識を身につけていると評価される |
USCPA(米国公認会計士) | ・外資系企業など会計分野でグローバルに活躍したい人向けの資格 ・世界各国で通用する国際資格 |
建築業経理事務士 | ・国土交通大臣の登録経理試験 ・建設業の経理に特化した知識と処理能力が身に付く |
経理は簿記を基本とし、数値分析をメインにしている検定や、税法や監査法などのより専門的な知識やスキルが必要になる資格があります。必要に応じて資格や知識を身につけることを検討しましょう。
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経理の将来性やキャリア
近年の技術の進歩により、数字を入力するなどの単純作業はAIやIT活用による業務効率化が進み、仕事内容に変化が求められます。それでも企業にとって経理業務は必ず発生する業務です。今後の経理業務の将来性と、今後のキャリアパスについて紹介します。
経理の将来性
AIなどの技術進歩やDX化(デジタルトランスフォーメーション)の進展により経理業務が効率化され、従来の仕事が減少するのではないかと将来性に懸念が示されています。実際にどのような懸念点があるのか解説します。
■改正電子帳簿保存法の施行などDXの流れが強い
2021年にデジタル庁が発足され、国を上げてDXに取り組んでいます。2022年1月から書類のデータ保存に関する要件が緩和されて、2024年1月からは電子取引データの保存が完全義務化されました。これにより今までは納品書・領収書・請求書などは紙でやり取りをすることが多かったものが、データでのやり取りができます。
オンライン会議やインターネット上で仕事を行うテレワーク導入企業も2020年より増えており、押印レスやクラウドでの文書管理が必要な環境になったことも一因です。
ご参考:国税庁 電子帳簿保存法について
■AI等の技術進歩による業務の効率化をしている
AIなどの技術進歩により経理業務の効率化が進み、記帳業務や入金の消し込み作業などの定型業務が減少しています。事前にAIなどに作業内容をプログラミングすれば、人間が寝ている夜中でも稼働が可能です。
ただし、経理は経営の意思決定に大きく関わる仕事のため、複雑な法改正や数字が正しいのかは人間が最終判断しなければなりません。今後は単純な数字の入力作業から解放され、会社の経営戦略に関わる財務分析やリスク評価など、より高度な思考を要する業務への転換が求められるでしょう。
経理のキャリアパス
経理には主に2種類のキャリアパスがあります。経理以外の業務も兼任して幅広い業務を行うゼネラリストや経理だけに特化したスペシャリストとして活躍するのか、今後のキャリアを考えるのに役立ててください。
■幅広い業務を行うゼネラリストになる
中小企業やベンチャー企業のような人員が少ない環境では、総務や人事など複数の業務を兼任していることも多く、バックヤードの幅広い業務経験を活かしたキャリアアップが目指せます。経理は経営判断に直結する数字に関わる業務です。経営に関わる経験や知識を活かした戦略立案や経営層のサポートを通して、経営企画やCFO(最高財務責任者)を目指すこともできます。
■経理のスペシャリストになる
一般的に経理業務範囲の広い大企業や外資系企業では、取引量も多く経理部門の中で分業されています。携わる担当業務で経験を重ねられるため、経理業務の専門性を磨く環境が整っています。経理業務の経験を積みながら、税理士や公認会計士など資格を取得して経理のスペシャリストになるキャリアプランもあります。より良い企業への転職の他、上位資格を取得すれば、独立開業も可能です。
まとめ
経理とは、会社内で発生する日々のお金の流れや取引の詳細を記録・管理する業務です。現預金の出納管理の日次業務から年次決算まで幅広く業務を行います。経理は会社を運営する上で必要な業務のため、スキルを身につければ様々な業種に就職でき、経営や企業の意思決定に関われます。今後はAIなどを活用した業務の効率化が進み、単純な入力業務だけでなく、財務分析やリスク評価などの高度な知識やスキルが求められるようになるでしょう。今後の経理のキャリア形成の参考にしてみてください。