税理士の将来性とは?業界動向や今後の税理士に必要なことを解説!

2024年3月26日(記事更新日:2024年3月26日)

AIやRPA(Robotic Process Automation)などのテクノロジーが進歩する近年。
税理士が担ってきた仕事の一部がなくなると噂されることもあり、税理士の将来性に不安を抱えている人もいるかもしれません。
今回は、税理士の将来性、税理士は今後どうすべきなのかを解説いたします。
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税理士業界の現状は?

税理士業界は過渡期を迎えています。
これまで業務の中心となっていた記帳代行などの単純作業が減少している一方で、中小企業数は減少、税理士数は増加傾向と、これまで長く続けられていた業務体制では対応が難しくなりつつあります。

テクノロジーの発達

AIやRPA、クラウドサービス、会計ソフトが普及したことで、自計化が進んでいます。自計化とは、伝票の整理や記帳業務、仕訳入力といった経理業務を中小企業が自社内で行うことです。
これらの業務は税理士資格がなくてもできる作業ですので、会計ソフトなどで対応可能になったことで税理士への外注数が減ってきているのです。
そのため税理士事務所では、単純作業の業務が大幅に削減されることとなりました。
業務削減は売上減少につながるものの、空いた時間と人手を使ってより高度な提案ができるようになったとも言い換えられます。
単純作業で終わりたくない・もっと高度なコンサルティング業務がしたい税理士にとっては追い風が吹いている状態です。

税理士登録者数の増加

国税庁によると、税理士登録者数は年々増加しています。
平成2年(1990年)には57,073人でしたが、令和4年(2022年)は80,692人と、1.4倍ほどに膨れているのが分かります。
一方、税理士試験受験者数は年々減少しており、令和5年度は32,893人でした。令和4年度(28,853人)より微増してはいるものの、大差はありません。
税制改正により税理士試験の受験資格が大きく緩和されましたが、それでも微増に留まっています。
これらのことから、過去の税理士試験合格者が継続的に税理士として活動を続けており、新たに税理士登録をする人は少ない、ということが分かります。
税理士が増加しているので1人あたりの顧客数は減少傾向にあります。しかし一方で、若手税理士が不足しているとも読み取れます。

出典:国税庁 税理士の登録者数 

中小企業数の減少

税理士事務所の主要顧客となる中小企業数は減少の一途にあります。
中小企業庁発表の「2020年版 中小企業白書」によると、日本国内の中小企業数は年々減少しており、1999年には485万社であった中小企業社数は、2016年に359万社まで減少しました。
中小企業庁は「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」の中で「2025年までに、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人 となり、うち約半数の127万(日本企業全体の1/3)が後継者未定」としており、中小企業数減少の一因が経営者の高齢化と後継者不足であることは否めません。

出典:中小企業庁 2020年版中小企業白書
出典:中小企業庁 中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題 

SNSやインターネットの発達

パソコンやスマホを通じて、一般の方も以前より会計知識を身に着けやすくなりました。以前なら仕訳をするにも参考書や解説書を読み込む必要がありましたが、今では必要な時に必要な情報が入手できます。
自計化が進んだ要因の1つとも言えるでしょう。
AI、会計ソフトなどの発達により税務申告も以前より容易になりました。国税庁もスマホからの確定申告に力を入れており、令和6年2月現在では、青色申告決算書や収支内訳書がスマホで作成できます。
経理に関する情報が手に入りやすくなったために、これまで税理士に求められていた単純作業や軽度な税務申告業務は減少しつつあるのです。

税制の複雑化

インボイス制度の導入、電子帳簿保存法の改正など、税制は年々複雑になっています。そのため、税理士はより高度な税務の専門知識を求められることとなりました。
ルーチンワークとしての仕訳作業などであれば、会計ソフトを使用して自計化できます。
しかし毎年行われる税制改正への正確な対応や細かなサポートはいまだ必要です。たとえばインボイス制度開始に伴う振込手数料の取り扱いの煩雑化について、多くの経理担当者が頭を悩ませています。
このような質問に対応できる専門家として、税理士は常に最新情報をインプットしていなければなりません。

税理士試験要件の緩和

年々、税理士試験受験者数が減少していることから、令和4年(2022年)に税制改正され、令和5年から試験要件が緩和されました。
具体的には、会計学科目は年齢に関係なく誰でも受験可能・税法科目も法律や経済を履修していなくとも受験可能、という要件緩和です。
これから税理士を目指す人にとって税理士試験にチャレンジしやすくなったのはもちろん、試験要件に該当しなかった人でも受験できる可能性が広がることになりました。

税理士業界の今後について

それでは税理士業界はどのようになっていくのでしょうか。
前項でお伝えした税理士業界の現状から、今後の傾向を読み解いてみましょう。

AI・ITツールとの分業

単純作業をツールやAIにより自動化し、より高付加価値のある業務に注力できるようになるでしょう。
クライアントが自計化していく傾向もあり、仕訳作業のような単純作業自体が減少していくと思われます。
会計ソフトなどで代替できる作業は、税理士の手から離れていき、コンサルティング業務を中心とした高付加価値の業務に置き換わるでしょう。

若手税理士にチャンス

税理士試験受験者の減少により、年々若手税理士が減少。
また現在の税理士の平均年齢は60歳以上と言われており、税理士全体での高齢化が進んでいます。
一方で、前述のAIやITツール普及の側面から、それを強みにしている若手税理士の需要があるのも事実です。
ほかにも、フラットな関係を求める経営者や、YouTuberなどの新しい分野で成功した個人事業主など、中小企業経営者層は二人三脚で成長していけるパートナーを探していることもあります。
このような若手税理士が活躍できるシーンは時代とともにさらに増えていくでしょう。

副業・フリーランスの増加

平成30年(2018年)に、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成し、「モデル就業規則」から副業を禁止する規定が削除されました。
これを機に、会社員でも副業を行う人が増えています。世界規模の感染症が発生した際には、ワイドショーで副業について取り上げられるほど話題になりました。
会社員が副業をした場合でも、給与以外の所得が20万円を越えれば基本的には確定申告が必要です。
この流れから、副業の所得が多い個人が税理士に申告代行を依頼するケースが増えています。

専門性が求められる可能性

テクノロジーの発達により、経理については自計化が進んでいます。
しかし、クライアントにとって税理士は不要になるわけではありません。
今後は、より専門的で複雑な業務を求められるでしょう。
たとえば法人税の決算のみを担当していたが、相続について相談されるかもしれません。この時、相談を受けられる税理士であれば契約は続行されるでしょう。
今までより高度な専門性を磨き、クライアントの要望に応え続ける必要があるのです。

今後の税理士に求められること

税理士を取り巻く環境は刻一刻と移り変わっています。
前項でも紹介したように、税理士に求められているスキルは変化しつつあります。
今後クライアントから必要とされるスキルとはどのようなものなのか、具体的に見ていきましょう。

AIやIT活用による業務効率化

まずは税理士事務所内で単純作業を自動化するなどして、業務効率化を進めます。AIは人間が何時間もかかる作業を一瞬で正確に提示してくれるので、業務にかかる時間がグッと短縮できるでしょう。
業務効率化の目的は、単純労働に回す人件費を抑制し、後述する付加価値の高いサービスにシフトすることです。
パートやアルバイトの手が空く場合は、高付加価値のサービスを提供する税理士や税理士補助の書類作成などのサポート業務を行ってもらいましょう。

コンサルティングなど付加価値の高いサービス提供

AIやITにより捻出した時間を使用し、付加価値の高いサービスを提供しましょう。高付加価値のサービスが提供できる税理士はクライアントから重宝されますし、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
特に国際税務・相続・税務コンサルティングは、今後増えてくると考えられます。
今のクライアントが求める専門性にシフトするか、今後伸ばしていきたい専門性にシフトするかは考え方次第ですが、どちらにせよ高付加価値のサービスを提供していくことが求められます。

専門性を高め得意分野を作る

専門特化した分野といえば、たとえば国際税務、事業承継、M&Aなどがあります。
専門性を高めることで、クライアントのニーズを鮮明にすることができ、課題解決に貢献できる機会が増えます。
クライアントからも寄り添ってもらえるという満足感や信頼感が得られます。
専門分野での依頼が増加すればスキルを磨き続けられるだけではなく、「○○の分野ならあの税理士」と認識されるでしょう。専門分野を作るまでは大変ですが、専門分野においてクライアントから指名されるようになるかもしれません。

より高いコミュニケーションスキル

クライアントが何に悩んでいるのか、どこに課題があるのか、などを把握するためのヒアリングにもコミュニケーションは必須です。
高付加価値サービスとなるコンサルティングや専門性の高い分野に特化していれば、なお重要です。コミュニケーションスキルの良し悪しはクライアントとの信頼関係に直結し、税理士の評価にもつながります。
またAIにはコミュニケーション面を期待することは難しいため、高度なコミュニケーションスキルは、今後の税理士にとって必要不可欠なスキルとなるでしょう。

まとめ

AIにとって代わられる職業と言われる税理士ですが、もちろん税理士という職業がなくなることはありません。これまで通り人間が行わなければ成り立たない業務は確実に存在します。
しかし、税理士業界にも時代の流れとともに、今までのやり方が通用しなくなっています。
これからは顧客からの評価を得て、より価値を高める必要があるでしょう。ぜひ本記事を参考に現状を振り返り、今後について考え行動に移すきっかけになれば幸いです。

この記事の監修者

伊藤之誉

長野県長野市出身。慶応義塾大学商学部卒業。1998年に国内最大手の税理士事務所(現デロイト トーマツ税理士法人)に入社後、上場企業から中小企業まで多種多様なクライアントに対する申告書作成業務、税務調査立会など法人の税務全般業務に従事。連結納税や国際税務のコンサルティング、個人所得税の申告書作成、税務デューデリジェンス業務にも従事。執筆、外部研修講師なども経験。2011年に伊藤之誉税理士事務所を独立開業 。軽いフットワークを武器に難解な税法をわかりやすくお伝えし、経営者の皆様と共に成長し、喜びをわかちあえることを理想としています。

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