多くの場合、税理士試験を突破した後に実務経験を経て税理士になります。
今回は税理士試験合格とは別に必要となる、実務経験についてまとめました。
これから税理士試験に挑戦する人は、実務経験についても知っておきましょう。
税理士になるまでの流れ
税理士の独占業務を行うには資格が必要
税理士として登録し、税理士と名乗り、税理士の独占業務を行うには、税理士の資格が必要です。
税理士資格の取得方法は税理士試験合格以外にもいくつかあります。
税理士試験に合格した人
税理士試験は毎年1回行われるペーパーテストです。
合計11科目の中から必須科目を含めた5科目に合格すれば税理士試験合格となります。難関試験で数年単位の学習時間が必要です。多くの税理士が通る道であり、税務についての基礎及び応用が学べます。
1〜4科目合格であっても税理士事務所では優遇され、昇給や転職に有利に働きます。
税理士試験に合格して税理士になる資格を得た人は、2年間の実務経験を経て税理士に登録できるようになります。
税理士試験免除者
税理士試験は合計5科目の合格が必要ですが、試験科目が免除される人もいます。主な免除対象者は以下のとおり。
・修士または博士の学位を授与された人:試験の一部が免除される
・10年または15年以上税務署に勤務した国税従事者:税法に属する科目が免除される
・23年または28年以上税務署に勤務し、指定研修を修了した国税従事者:会計学に属する科目が免除される
中でも修士または博士の学位授与で試験が一部免除されるため、勤務先が協力的であったり残業があまりない職場であったりする場合は、働きながら大学院に通う人も少なくありません。
税理士試験は1科目ごとの学習時間が数百時間を超える難関試験です。同じ時間を費やすならば、確実に科目が免除される学位授与を選択する人が多いです。
ただし税理士試験免除者も、試験合格者と同様に実務経験が必要になります。
弁護士資格取得者
弁護士の資格を有している人は、税理士試験の受験を経ずに税理士登録が可能です。
弁護士法第三条2項にも「弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。」と記載されています。弁護士なら税理士の仕事ができて当然という認識なのです。ちなみに弁護士の資格を有している人は、税理士だけでなく弁理士、社労士、行政書士、海事補佐人といった資格も無試験で取得できます。
なお弁護士が税理士登録をする際には実務経験も不要です。
公認会計士資格取得者
公認会計士の資格を有している人も、税理士試験を受験せずに税理士登録が可能です。ただし資格取得時期によって税理士となるための要件が変わりますのでご注意ください。
2017年3月31日までに公認会計士試験に合格した人は、無試験・実務経験なし、無条件で税理士に登録可能です。
一方で2017年4月1日以降に公認会計士試験に合格した人は、無試験・実務経験なしは変わりないものの、公認会計士法第16条第1項に規定する実務補習団体等が実施する研修のうち、財務省令で定める税法に関する研修を修了することが必要となりました。
この変更は2012年に、日本税理士会連合会からの「税理士法に関する改正要望書」や日本公認会計士協会からの「日本税理士連合会の『税理士法に関する改正要望書』について」という声明が発表されたことを受けて、2017年4月より合意内容に沿った税理士法の改正が行われました。
税理士試験合格者と免除者は2年以上の実務経験が必要
税理士試験合格者と試験免除者が税理士として登録するためには、2年間の実務経験が必要です。逆に言えば、税理士試験に合格しても実務経験をクリアできなければ税理士にはなれません。
実務経験は税理士試験合格前の経験であってもカウントされます。受験前から税理士として活躍すると決めているならば、前もって実務経験が積める環境に身を置くと良いでしょう。
税理士試験についての詳細は以下の記事をご覧ください。
税理士試験とはどんな試験?概要や科目、難易度について解説!
税理士登録に必要な実務経験とは?
税理士法において、実務経験とは「租税に関する事務又は会計に関する事務で政令で定めるもの」とされています。
具体的に何が実務経験となり、何がダメなのか知っておきましょう。
実務経験としてカウントされるもの
税理士法によると、実務経験に該当するかどうかは、登録申請書や在職証明書等を提出した後、税理士会が判断するとされています。
これだけでは具体性に欠けますが、一定の基準が説明されています。詳細は下記のとおりです。
業務種類
国税庁が発表している法令解釈通達第2条<税理士業務>関係によると、実務経験としてカウントできる業務は以下の6パターンとされています。
1.簿記上の取引について、簿記の原則に従い取引仕訳を行う事務
2.仕訳帳等から各勘定への転記事務
3.元帳を整理し、日計表又は月計表を作成して、その記録の正否を判断する事務
4.決算手続に関する事務
5.財務諸表の作成に関する事務
6.帳簿組織を立案し、又は原始記録と帳簿記入の事項とを照合点検する事務
出典:国税庁
具体例
・会計ソフトへの仕訳入力等
・総勘定元帳や補助元帳への転記等
・売掛や残高等を確認し月次決算を行う
・年次決算処理にかかる売り上げや売掛、買掛、残高照合等の業務
・損益計算書や貸借対照表等の作成
・領収書と入力した帳簿内容を照合する等
簿記会計の知識が必要な業務は、概ね実務経験に該当します。
実務経験としてカウントされないもの
簿記会計に関する知識がなくてもできる単純な事務は実務経験に該当しないとされています。
業務種類
簿記会計に関する知識がなくてもできる単純な事務
具体例
・売上金額を日毎に計算して記録する
・社員の旅費精算のみ行う
・消耗品や雑費等の金額を記録する
税理士補助業務や実務経験についての詳細は以下の記事をご覧ください。
税理士補助とは?仕事内容や税理士登録に必要な実務経験についても解説!
実務経験を積む方法
実務経験の積み方には大きく3パターンがあります。
将来のキャリアも踏まえて、実務経験を積む職場を検討しましょう。
会計/税理士事務所や税理士法人で働く
多くの人が実務経験を積む場として選択しているのが、会計事務所や税理士法人等です。主に税理士補助として働き、実務経験を積むことになります。
税理士法人等は税理士試験への理解があり、試験前休暇が取れる・残業を減らしてもらえるといったサポートが受けられる可能性があります。
また税理士補助の仕事は、税理士になるために必要となる知識や経験を得られるため、実務経験としても最適と言えます。コンサルティングやアドバイザリー業務に関われる可能性もあり、より実践的な能力が身につきます。
一般企業の経理や財務職として働く
一般企業の経理や財務職でも実務経験としてカウントされることもあります。ただし業務内容次第では実務経験とみなされない恐れもありますのでご注意ください。また部門移動で経理や会計部門から異動してしまうリスクも考えられます。税理士資格取得後も一般企業で働き続ける予定ならば、その企業内で実務経験とキャリアを同時に積んでいくのが良いでしょう。
一般企業において税理士資格を目指す人はかなり珍しいので、税理士事務所等よりも待遇が良くなる可能性があります。
税務署で国税専門官として働く
税務署での国税専門官としての業務も実務経験とみなされます。
勤続年数によっては税理士試験が免除されますので、現在国税専門官であるならば、一定の勤続年数を経てから税理士試験に挑戦してはいかがでしょうか。
・10年又は15年以上税務署に勤務した国税従事者:税法に属する科目が免除
・23年又は28年以上税務署に勤務し、指定研修を修了した国税従事者:会計学に属する科目が免除
ただし国税専門官となるには国家公務員の採用試験に合格しなければなりません。
いずれもパートやアルバイトでの募集を行っているケースもあります。パートやアルバイトであっても実務経験に反映されますので、長く働けない事情がある人はご検討ください。
これから転職する人は、募集要項や仕事内容を確認の上、面接で税理士の実務経験に該当する仕事がしたいと伝えましょう。企業側も税理士候補に長く働いてもらえれば助かりますから、実務経験が積める職場に配属される可能性が高まります。
実務経験を積む会計/税理士事務所や税理士法人にも特色がある
実務経験を積む場として最もおすすめなのは会計事務所や税理士法人等です。
税理士登録を果たした後の専門的な業務を目の当たりにできるのですから、本当の意味での「実務経験」になります。
会計事務所や税理士法人等を選ぶ際には、その特色や専門性で選択しましょう。
実務経験を積む間に実践的なスキルを身に着けられ、かつ税理士登録した後は即戦力として活躍できます。
規模による違い
まずは会計/税理士事務所と税理士法人の違いを押さえておきましょう。
会計事務所・税理士事務所は、通常、数人単位で運営されている小さめの事務所です。主なクライアントは中小企業や個人事業主。地域密着型の仕事がしたい場合は会計事務所や税理士事務所を選びましょう。
対して税理士法人は数十人規模に及ぶこともあります。数人規模で法人化しているところもありますが、その場合は売上規模が大きいか、将来拡大する予定があるということでしょう。主なクライアントは中小企業や大企業です。ダイナミックな仕事がしたい場合には税理士法人がおすすめです。
会計/税理士事務所と税理士法人についての詳細は以下の記事をご覧ください。
会計事務所と税理士事務所/税理士法人の違いとは?仕事内容なども解説!
得意分野による違い
学校の先生も理科と社会、国語や算数で分かれているように、一口に税理士と言っても得意分野が異なります。
多くの場合は中小企業の法人税中心に取り扱っていますが、中には相続(資産税)専門であったり、M&A専門であったり、上場支援専門であったりと様々です。
1.一般の事務所
中小企業のクライアントに対して決算業務や社長の確定申告、社員の年末調整等を行います。中心となる業務は法人の決算業務であり、それに付随する形で様々な業務を行います。
中小企業のトップと対等に話ができるチャンスが多く、税理士としても人としても成長できるでしょう。
2.特化型事務所
特に近年では資産税や国際税務などのニーズは高まっています。それぞれの分野で必要とされるスキルを磨きながら、専門を極めたい人におすすめの事務所です。
相続(資産税)特化型、M&A特化型、国際税務特化型といった特化型事務所では、深い知識と専門性が得られます。専門を極めたい人におすすめの事務所です。
実務経験の計算方法
実務経験の必要期間は通算2年以上とされています。何をもって2年とするのか日本税理士連合会の税理士登録の手引きを元に解説いたします。
出典:税理士登録の手引
勤務時間の積み上げには制限がある
「正規の雇用関係があり、原則として通常の勤務時間内(時間外勤務は含まない)における税務又は会計に関する事務に従事していた期間」が実務経験としてカウントできます。
時間外勤務や休日勤務を実務経験に含められないことにご注意ください。さらに勤務時間の積み上げには以下の制限が設けられています。
・1日の従事時間は7時間まで
・1月の従事時間は154時間まで
・2年相当の従事期間は3,696時間(154時間×24月)まで
これらの上限を超える従事時間については、たとえ時間外勤務でなかったとしても実務経験の積み上げ対象から除かれます。
対価のない従事は対象外
無報酬での従事は、基本的に実務経験とは認められません。
給与や報酬を受け取りながら実務経験を積みましょう。
ケースに応じて別途追加書類が必要
下記のケースで該当する業務に従事していた場合でも、実務経験として算入できます。ただしケースに応じた追加書類の提出が必要です。
大学院に通学しながら従事していた場合 | ・勤務時間の積上げ計算書 ・大学院の通学状況説明書 |
自営する会社や個人事業で経理事務に携わっていた場合 | ・職務概要説明書 ・法人税又は所得税の確定申告書のコピー及び決算書2期分 ・税理士からの実務経験に関する説明書(関与する税理士がいる場合) |
小規模な会社で経理事務に従事していた場合 | ・職務概要説明書 ・税理士からの実務経験に関する説明書(関与する税理士がいる場合) ・勤務時間の積上げ計算書類 |
上記の他、法人税の確定申告書のコピーや決算書、その他書類の提出が求められることもあります。
勤務期間の合算可能
一箇所の勤務では実務経験が不足する場合、複数箇所での勤務期間を合算できます。
たとえば会計事務所に1年間在籍して実務経験を積み、その後に税理士法人に転職して1年間実務経験を積んだ場合、合計2年の実務経験ありとみなされます。
パート、アルバイトも勤務日数/時間で計算
パートやアルバイト等、正社員よりも1日の従事する時間が短い場合は、勤務日数や勤務時間等の実態に応じて実務経験を積み上げられます。
勤務時間の積上げ計算書を提出して実務経験を証明しましょう。
試験合格前の期間も計算に含める
税理士試験合格前の実務経験も積み上げ対象です。
税理士補助として働きながら税理士試験に挑戦している人は少なくありません。
試験合格前に2年以上の実務経験を満たしていれば、試験合格後すぐに税理士登録が可能です。
在職証明書が必要
実務経験を満たしているかどうかは、日本税理士連合会が個別に判断します。
その判断に用いられる書類の代表が在籍証明書です。
在職証明書とは
在籍証明書とは、実務経験期間を満たしていることを証明するものです。
日本税理士連合会で様式が定められていますので、ダウンロードして使用してください。
勤務先の代表者の証明書と印鑑証明が必要ですので、実務経験を充足したら代表者に証明してもらいましょう。
在職証明が入手できない場合
以下のようなケースで在職証明が取得できない場合でも、追加書類を提出すれば実務経験と認められます。
1.過去に勤務していた会社の倒産や破産
以下の書類を提出します。
・当時の代表者による在職証明書
・在職証明書に押印した印鑑登録証明書
・源泉徴収票又は確定申告書のコピー
・閉鎖事項証明書
2.過去に勤務していた会社の吸収合併
以下の書類を提出します。
・合併後の存続会社が発行した在職証明書
・在職証明書に押印した印鑑登録証明書
・合併後の存続会社の履歴事項全部証明書
3.派遣会社から派遣されている場合
以下の書類を提出します。
・派遣元及び派遣先が発行した在職証明書
・在職証明書に押印した印鑑登録証明書
まとめ
税理士試験に合格または免除された場合で税理士登録を目指すなら、2年間の実務経験が必要です。実務経験として認められる業務は「租税に関する事務又は会計に関する事務で政令で定めるもの」とされており、特別な判断を要しない機械的な事務業務は認められません。現在、実務経験が積める職場で働いているのならば問題はありませんが、念のため上司には実務経験が必要であると伝えておきましょう。転勤や転属等が発生しないように配慮してもらえるかもしれません。
なおパートやアルバイトであっても、租税に関する事務又は会計に関する事務に該当する仕事に携わっているのならば、実務経験としてカウントできます。その場合も上司に一言伝えておくと安心です。
税理士試験合格後に実務経験が積める職場に転職を検討しているのならば、面接等で税理士として登録するための実務経験が積みたい旨を伝えましょう。転職後に配属転換されるケースもありますので、ミスマッチを防ぐためにも事前申告は必要です。