税理士のダブルライセンスとは?役に立つおすすめな資格やメリットを解説

2024年8月2日(記事更新日:2024年8月2日)

税理士資格はそれだけでも大変優秀な資格ですが、別の資格と組み合わせるとさらに有利になります。
今回はダブルライセンスがなぜ有利なのか、税理士資格と相性の良い資格は何なのか、税理士がダブルライセンスを取得するメリット等をお伝えいたします。

ダブルライセンスとは

ダブルライセンスとは、2種類以上の資格を保有することです。
AIの発展等により単純作業は自動化されつつあり、税理士にはより高度で専門的な業務、高い付加価値の提供が求められています。ダブルライセンスを取得することによって、税理士業務以外の分野でも活躍できるようになり、付加価値の向上に役立つでしょう。
またダブルライセンスにより幅広い業務を行えるようになりますので、クライアントのニーズに応えやすくなるという意味でも、ダブルライセンスは重要です。

税理士におすすめなダブルライセンス

税理士資格と相性の良い資格を下記にピックアップしました。
ダブルライセンスはどのような資格でも良いわけではありません。
税理士のクライアントが希望する業務を行えるようになる資格や、隣接する業務分野の資格が適しています。高度な書類作成に関わる資格や、経営コンサルティングに関連する資格です。

社会保険労務士(社労士)

■資格概要
社会保険労務士(以下、社労士)とは、企業における採用から退職までの「労働・社会保険に関する諸問題」や「年金の相談」等に応じられる国家資格です。
主に入退社手続きや給与計算等、業務内容は広範囲にわたります。

■独占業務
社労士の独占業務は1号業務、2号業務と呼ばれるものです。

<1号業務>
労働社会保険諸法令に基づいて、申請書等を作成する
申請書等について提出に関する手続きを代行する
労働社会保険諸法令に基づく申請等について又は当該申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述について代理する
<2号業務>
労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類を作成する

参考:e-GOV法令検索 社会保険労務士法 

1号業務とは、労働社会保険諸法令に基づく申請書の作成や手続きの代行を意味します。
2号業務とは、労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成のことです。該当する帳簿には「法定三帳簿」や就業規則等も含まれます。
法定三帳簿は従業員を雇用している事業所では必ず作成・保管しなければなりません。
なお3号業務も定められていますが、独占業務ではありません。

■資格取得難易度
難易度:★★★★(税理士試験を★5とした場合)
合格率:6%前後
受験資格:学歴・実務経験・厚生労働大臣の認めた国家試験合格、のいずれか
勉強時間:800時間~1,000時間
ポイント:税理士資格は社労士試験の受験資格に該当する

社労士資格試験は税理士試験よりも若干易しいものの、難関資格の1つです。近年の合格率は6%前後を推移。
また科目数が多く試験範囲が広いことも合格率が低い要因とされています。
税理士資格は社労士試験の受験資格を満たしますので、税理士試験合格後すぐに受験可能です。ただし科目免除等の優遇はありません。

■税理士資格との相乗効果
社労士は独占業務である労働や社会保険等に関する申請書作成や諸手続きが代行できる資格です。
税理士の主なクライアントの中小企業にとって、通常であれば税理士と社労士にそれぞれ依頼するべきことも、まとめて依頼できることになります。
社労士は税理士資格との相乗効果が高く、クライアントにも付加価値を感じてもらえるでしょう。

行政書士

■資格概要
行政書士とは、官公署に提出する許認可等の申請書類の作成や提出手続きを代行できる国家資格です。
各種契約・相続などの権利義務に関する書類や、各種図面類・議事録、会計帳簿などの事実証明に関する書類作成も行います。

■独占業務
行政書士の独占業務は以下の3つです。
 1.官公署に提出する書類の作成
 2.権利義務に関する書類の作成
 3.事実証明に関する書類の作成

参考:e-GOV保冷検索 行政書士法 

特に官公署に提出する書類は1万種類以上あると言われています。
行政書士法にあるように、他の法律において制限や独占されている業務は行えませんが、それを除いても業務内容は多岐にわたります。
特定の研修を受けると「特定行政書士」に認定され、これまで弁護士が行っていた、行政不服審査法上の不服申立て手続きを取り扱うことができるようになります。

■資格取得難易度
難易度:★★★(税理士試験を★5とした場合)
合格率: 10%前後
受験資格:なし
勉強時間:800時間~1,000時間
ポイント:税理士試験の合格者は、自動的に行政書士になる資格を有する

行政書士試験は、税理士試験よりも比較的易しい試験です。合格率は10%と低いように感じますが、受験資格がないことがその一因と考えられます。行政書士は独学でも合格可能で、その場合の勉強時間は1,000時間前後です。専門学校に通う場合は勉強時間を短縮できるでしょう。
すでに税理士資格を保有している場合は行政書士登録を行うことで、行政書士試験を受験することなく行政書士になれます。

■税理士資格との相乗効果
各種許認可等の申請書類作成と申請が代行できるので、起業段階でのサポート等に強くなれます。税理士としての新規クライアントの開拓に一役買ってくれることでしょう。遺産分割協議書の作成もできるので、資産税分野に進出したい税理士にもおすすめです。
税理士資格を有しているなら今すぐ行政書士にもなれるため、ダブルライセンスの効果を得やすいことも魅力です。

ファイナンシャルプランナー(FP)

■資格概要
ファイナンシャルプランナー(以下、FP)は、主に個人に対して、ファイナンシャル・プラン(資産設計)を提案できる資格です。
幅広く知られている資格はFP技能士という国家資格で、1〜3級の等級があり、1級が最も高いレベルになります。税理士とのダブルライセンスで有効活用できるのは2級または1級です。
FP技能士の他にも、AFPやCFPといった民間資格も存在します。

■独占業務
なし

FPに独占業務は定められていません。しかしファイナンシャル・プランを提供する場合、FP資格を取得します。

■FP技能士1級資格取得難易度
難易度:★★★(税理士試験を★5とした場合)
合格率:10%前後
受験資格:5年以上の実務経験やFP2級合格者かつ1年以上の実務経験者等
勉強時間:400~600時間
ポイント:FP技能士試験における税理士資格の優遇制度はないが、AFPは資格認定を受ける権利が得られる

クライアントからの信頼を得るためにはFP技能士1級またはそれと同程度の知識が必要です。勉強時間は500時間前後で済みますが、FP2級保持等の受験資格をクリアしなければなりません。仮にFP2級を取得するならば、さらに時間を要するでしょう。
なお民間資格であるAFPを取得する場合、税理士資格を保有していればは資格認定を受ける権利が得られます。AFPはFP技能士2級と同程度のレベルです。

■税理士資格との相乗効果
金融・税制・不動産・住宅ローン・保険・教育資金・年金制度などの幅広い知識を備えて、ファイナンシャルプラン(資産設計)の作成・提案ができるようになります。
たとえば生前贈与等の相続税対策から、不動産や生命保険など、クライアント個々人の家計にかかわるような一歩踏み込んだ相談までトータルサポート等。仕事の幅も広がるでしょう。

司法書士

■資格概要
司法書士とは、法務局・裁判所・検察庁などの官公署へ提出する書類作成や手続きを代行できる国家資格です。
主に不動産登記や商業登記、成年後見業務等の業務があります。

■独占業務
司法書士法により定められている独占業務は以下の5つです。

 1.登記または供託に関する手続きの代理
 2.法務局に提出する書類の作成
 3.裁判所や検察庁に提出する書類の作成
 4.法務局の長に対する登記または供託に関する審査請求の手続きの代理
 5.上記に関する相談に応じること

出典:日本司法書士会連合会 

■資格取得難易度
難易度:★★★★★★(税理士試験を★5とした場合)
合格率:3〜4%前後
受験資格:なし
勉強時間:3,000時間前後
ポイント:相対評価なので受験者数が増減しても合格率は変わらない

一般的に、税理士試験よりも難易度が高いと言われています。その大きな理由は相対評価であること。得点上位5%前後を合格とする試験なので、仮に高得点を獲得しても、確実に合格できるとは限りません。
なお税理士資格を保有していても、特に免除や優遇はありません。

■税理士資格との相乗効果
起業する際には商業登記が必要ですし、相続の場面で不動産移転登記が発生することもあります。税理士を必要とするクライアントに対して、ワンストップでサービスを提供できるようになるでしょう。相談できる領域が広がることで、クライアントからの信頼も高まります。税理士資格と親和性の高い資格です。

中小企業診断士

■資格概要
中小企業診断士は、中小企業支援法に基づき経済産業大臣が登録する国家資格です。
中小企業の経営課題に対応するための診断・助言を行います。

■独占業務
なし

独占業務はありませんが、取得しておくと経営コンサルティングを提供する際に有利に働きます。

■資格取得難易度
難易度:★★★★(税理士試験を★5とした場合)
合格率:4%前後
受験資格:なし
勉強時間:1,500時間前後
ポイント:科目合格は3年間有効

税理士試験よりも比較的易しい試験とされています。ただし2次試験は制限時間以内に問題の意図をくみ取る必要があり、応用能力が問われるようです。
税理士の科目合格は生涯有効ですが、中小企業診断士の科目合格は3年間のみ有効です。そのため3年間で合格できなければ、以前の合格科目を再び学習しなければなりません。
なお税理士資格保有者は、一部科目が免除されます。

■税理士資格との相乗効果
税理士事務所の主なクライアントは中小企業であり、しかも現在は税理士にコンサルティング業務が求められる傾向にあります。経営全体の疑問や不安に応えてくれる税理士は今後さらに需要が高まるでしょう。
また転職を検討する場合、会計・税理士事務所だけでなく、コンサルティング会社も選択肢の1つとして考えることができます。

不動産鑑定士

■資格概要
不動産の適正価格を鑑定する仕事を担う国家資格です。
不動産の価値は社会情勢や時代によって変わるため、鑑定に必要な水準や価値、判断資料の調査・分析等の業務も行います。

■独占業務
不動産鑑定士の独占業務は「不動産鑑定評価」です。
様々な資料や情報を元に不動産を鑑定し、不動産鑑定評価書を作成します。

参考:日本不動産鑑定士協会連合会 

■資格取得難易度
難易度:★★★★(税理士試験を★5とした場合)
合格率:8%前後
受験資格:なし
勉強時間:2,000〜3,000時間
ポイント:不動産鑑定士登録には合格後2年間の実務修習を受け修了考査に合格する必要がある

税理士試験ほどではありませんが、合格は容易ではありません。公認会計士と同様に短答式試験と論文式試験に分かれており、両方に合格する必要があります。短答式試験の合格は2年間有効です。2年以内に論文式試験合格を目指しましょう。
税理士資格を保有していても優遇されませんが、公認会計士資格保有者は一部科目が免除されます。

■税理士資格との相乗効果
相続や資産税の計算において、不動産の評価は高い頻度で発生する業務です。そこで不動産鑑定士の資格を取得していれば、クライアントからの信頼も得られますし、不動産評価ができる税理士は非常に重宝されます。
特に資産税特化型の税理士を目指す方にはおすすめの資格です。

ダブルライセンスを取得するメリット

税理士資格だけでも十分社会で通用しますが、ダブルライセンスであればさらにキャリアや業務の幅が広がります。
ただし資格取得して終わりではなく、実務で役立つように研鑽が必要です。

他の税理士資格保有者との差別化

税理士は一度取得すると生涯有効な資格なこともあり、有資格者数は増加の一途を辿っています。
飽和状態とまではいきませんが、税理士資格の希少性が以前ほど高くないのは明らかです。そのため、今後は他の税理士との差別化が必要になります。
差別化を進める上で有効なのがダブルライセンスです。税理士資格の独占業務だけでなく、他の資格の独占業務も一手に引き受けられるならば、大きな差別化になり得ます。
ただし上記で紹介しているように、税理士資格との親和性が高い資格を選択してください。

クライアントの満足度向上

税理士の主なクライアントは中小企業です。中小企業が税理士に求めることは、決算業務だけではありません。信頼できる税理士には、財務体質の向上や経営全体のアドバイス、個人的な生前贈与等、幅広い分野で相談したいと考えているものです。
税理士資格のみであれば対応できなかった業務にもダブルライセンスなら一手に引き受けられる可能性が出てくるので、クライアントからの満足度向上につながります。
また近年では相続や事業承継などのニーズも多く聞かれます。専門性を高めることでクライアントにもメリットとなるダブルライセンスならば、時流にあった働き方が可能です。

将来のキャリアの構築

たとえば司法書士やFP、行政書士といった資格を有していれば、資産税特化型税理士として活躍することも可能です。
また中小企業診断士を有していれば、経営コンサルティングができる税理士として引く手数多となるかもしれません。
このように、ダブルライセンスはあなたの可能性を大いに引き出してくれるのです。
将来どのように働きたいのかを明確にした上で、理想の未来につながる資格を選択し取得しましょう。

まとめ

ダブルライセンスを持つ税理士は今後非常に有利になります。
本記事で紹介しました内容を参考に、ぜひ最適な資格取得を目指してください。
税理士資格だけでは到達できなかった領域にも届くようになるでしょう。

この記事の監修者

伊藤之誉

長野県長野市出身。慶応義塾大学商学部卒業。1998年に国内最大手の税理士事務所(現デロイト トーマツ税理士法人)に入社後、上場企業から中小企業まで多種多様なクライアントに対する申告書作成業務、税務調査立会など法人の税務全般業務に従事。連結納税や国際税務のコンサルティング、個人所得税の申告書作成、税務デューデリジェンス業務にも従事。執筆、外部研修講師なども経験。2011年に伊藤之誉税理士事務所を独立開業 。軽いフットワークを武器に難解な税法をわかりやすくお伝えし、経営者の皆様と共に成長し、喜びをわかちあえることを理想としています。

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