監査法人とは?業務内容や監査の種類、働くためのポイントなどを解説!

2024年8月6日(記事更新日:2024年8月6日)

監査法人という言葉を耳にすることはあっても、具体的な業務内容や働くためのポイントは、よく分からない方もいるのではないでしょうか。
この記事では監査法人の概要や業務内容、監査法人で働くためのポイントを解説します。

監査法人とは

監査法人とは、公認会計士法に基づいて設立された「会計監査を専門とする法人」です。
公認会計士5名以上で設立でき、主に上場企業など大企業の会計監査をおこないます。

監査の業務内容

監査法人の業務内容は、大きく分けて「監査業務」と「コンサルティング業務」の2種類です。

■監査業務
監査業務とは、決算書の内容が法令に従って正しく作成されているかを検証する業務です。監査法人の中で最も重要な業務といえます。

なお、以下の企業は、法律で公認会計士による監査が義務づけられています。

対象企業監査を義務づけている法律
資本金5億円以上、
または負債金額が200億円以上の会社
会社法
すべての上場企業金融商品取引法

<参考>
・日本公認会計士協会 会社法監査
・日本公認会計士協会 公認会計士監査とは 

そのため、監査法人のクライアントは、大企業や上場企業が中心です。
他にも、学校法人や医療法人など、法令で監査が義務づけられる法人をクライアントに持つ場合もあります。

監査業務は、専門知識と経験に基づいておこなわれるため、公認会計士の資格が必要であり、公認会計士の独占業務です。
公認会計士について、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

関連記事はこちら
・公認会計士とは?仕事内容や魅力を解説!
・公認会計士試験とは?試験内容や合格率を解説! 

コンサルティング・アドバイザリー業務
コンサルティング・アドバイザリー業務とは、監査を通じて培った専門知識や経験を活かし、企業の経営に関する幅広いアドバイスを提供する業務です。

コンサルティング内容は、株式公開支援、M&A(企業の合併・買収)支援、内部統制の構築支援、財務戦略の策定支援など、さまざまです。

たとえば、株式公開支援では、上場に向けたスケジュールの作成や法律に関するアドバイス、投資家向け資料の作成といった支援をおこないます。
また、M&A支援では対象企業の選定や買収企業の調査を、財務戦略では予算編成や資金調達、コスト削減などの策定を支援します。

ただし、原則として監査法人は監査先の企業に対して、同時に監査業務とコンサルティング業務を提供できません。
これは、監査の客観性や独立性が損なわれ、適正な監査をおこなえなくなる可能性があるためです。

監査とは

監査とは、企業の運営や経営が適切におこなわれているかを確認する作業です。
簡単にいうと、企業の健康診断のようなもので、監査によって経営状態を詳しく調べ問題がないか確認します。

監査は、監査対象の業務によって主に次の2種類です。
・会計監査:貸借対照表や損益計算書など、決算書が適正に作られているかを確認する監査
・業務監査:企業活動が効率的かつ健全におこなわれているかを確認する監査

これら2つの監査によって、企業は財務状況や経営状態の透明性を高め、利害関係者からの信頼性を向上させます。
また、経営課題を発見し、改善につなげることも可能です。

監査の種類

監査は、誰がおこなうかによって、大きく次の3種類に分けられます。

監査の種類監査人主な監査対象目的
外部監査監査法人会計監査社外関係者への客観性と信頼性の提供
内部監査企業の監査部門会計監査
業務監査
経営目標の達成や不正防止
監査役監査監査役業務監査株主利益の保護

■外部監査
外部監査とは、独立した第三者組織である監査法人がおこなう監査です。
外部監査は投資家や債権者などの利害関係者から独立した立場のため、客観性と信頼性の高い監査です。
主に、会計監査をおこないます。
なお、前述のとおり、大企業や上場企業では、法律で外部監査が義務づけられています。

■内部監査
内部監査とは、企業が独自に設置した監査部門がおこなう監査です。内部監査では、会計監査と業務監査の両方をおこない、経営目標の達成や不正防止が主な目的です。

■監査役監査
監査役監査とは、株主総会で選任された監査役がおこなう監査です。
監査役は株主に代わって、取締役の業務執行状況を監査します。
監査役監査は株主の利益を守り、会社の健全な経営を確保するための重要な役割です 。

外部監査の重要性

外部監査の重要性は、企業の信頼性と透明性の確保にあります。

企業の財務諸表に基づいて、投資家や株主は投資判断を、債権者は融資判断をおこないます。企業間取引においても、財務状況は重要な判断材料です。
もし、外部監査がなければ、企業が決算書の粉飾など不正をおこない、利害関係者に損害を与える可能性があります。
このため、これらの利害関係者が適正な情報に基づいて安心して判断できるよう、外部監査がおこなわれるのです。

上記のように、外部監査は投資家、株主、債権者、取引先企業にとって出資判断、リスク管理、信頼性の確保に役立つ重要な情報を提供します 。
そのため、会社法や金融商品取引法では、一定規模以上の企業に外部監査を義務づけています。
監査を怠ると、最大100万円以下の罰金が科される可能性があり、さらに社会的な信頼も失いかねません。

参考:e-GOV法令検索 

外部監査の流れ

外部監査は、大きく分けて以下の6つのフェーズに分けられます。

①予備調査
監査契約を締結する前に、監査法人は監査対象となる企業の予備調査をおこないます。
具体的には、会社の事業内容や財務状況、過去の監査結果などが調査対象です。
予備調査によって、監査を請け負うリスクや本調査でどこに焦点を当てるべきかを判断します。

②監査契約
予備調査に基づき、監査法人と監査対象となる企業の間で、監査契約を締結します。
契約内容は、監査の目的や範囲、報酬、守秘義務などです。

③監査計画の立案
監査計画とは、監査の実施方法や実施時期など、監査をどのように実施していくかを定めた計画書です。
監査計画をたてることで、調査漏れを防ぎ、監査を効率的に進めることができます。

④監査の実施
本決算までに、四半期ごとに期中監査を実施するのが一般的です。
期中監査では、主に以下がおこなわれます。
会計帳簿などの確認:帳簿書類や請求書、領収書、通帳などを検査し、適正かどうかを確認
面談:経営者や経理担当者などと面談し、会計処理の内容などを聞き取り

⑤レビュー、内部統制
監査実施後、監査結果をレビューします。レビューでは、監査結果の妥当性、監査手続の適切性などを確認するとともに、期中監査で発見された問題点の改善策を検討します。

⑥期末監査
期末監査は、決算後におこなわれる監査で、決算時における資産と負債、収益と費用が正しく計上されているかどうかをチェックするものです。
このため、決算時には現金や小切手、在庫などの実地調査が必要です。
期末監査の結果は、監査報告書としてまとめられ、監査役会に提出されます。

監査法人のBIG4とは?法人規模による違い

監査法人は、規模によって大手監査法人、準大手監査法人、中小監査法人(中小規模監査事務所)の3つに分類されます。

大手監査法人(BIG4:4大監査法人)

大手監査法人とは「上場国内会社を概ね100社以上被監査会社として有し、かつ常勤の監査実施者が 1,000 名以上いる監査法人」です。

出典:金融庁 公認会計士・監査審査会「令和5年版モニタリングレポート」 

具体的には、次の4つの監査法人を指し、いずれも世界的な大手会計事務所と業務提携しています。

監査法人業務提携先
有限責任監査法人トーマツデロイトトウシュトーマツ
PwC Japan有限責任監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)
EY新日本有限責任監査法人アーンスト・アンド・ヤング(EY)
有限責任あずさ監査法人KPMG

大手監査法人の主なクライアントは、上場企業など大企業です。

大手監査法人では、監査業務とコンサルティング業務が分業化されているため、それぞれの専門性を高めることができます。
基本的に業務量が多く、繁忙期以外も忙しい傾向にありますが、その分年収が高く、福利厚生も充実しています。

準大手監査法人

準大手監査法人は、「大手監査法人に準ずる規模の監査法人」です。

出典:金融庁 公認会計士・監査審査会「令和5年版モニタリングレポート」 

以下の5社が準大手監査法人とされています。
 ・太陽有限責任監査法人
 ・仰星監査法人
 ・東陽監査法人
 ・三優監査法人
 ・PwC京都監査法人※
  ※2023年12月1日付でPwCあらた有限責任監査法人と合併し、PwC Japan有限責任監査法人に名称変更

準大手監査法人のクライアントは、上場企業が中心で大手監査法人とあまり変わりません。監査の品質も、大手監査法人と同じ高い品質を誇っています。

ただし、大手監査法人に比べると小規模な監査チームで業務をおこなうケースが多く、担当業務の幅も広い傾向があります。
早期にキャリアアップを考えている人にとって、早い段階で監査業務全体を経験できる点は準大手監査法人の魅力です。

中小監査法人

中小監査法人は、大手監査法人、準大手監査以外の監査法人です。
中小監査法人とひとくくりに言っても、従業員数が数十人から数百人まで、規模はさまざまです。
また最近では、IPO特化や海外特化など、特化型の中小監査法人もあります。

中小監査法人は顧客との距離が近く、個々のプロジェクトに深くかかわります。経営に関する幅広い知識を身につけることができるのに加え、経営者との直接話す機会もあり貴重な経験を積むことができます。ただし、大手にくらべると年収は低い傾向にあります。

上記のとおり、監査法人もさまざまです。キャリア目標や希望する働き方などを考慮して、志望する監査法人を選びましょう。
 ・グローバルなキャリアを目指したい:大手監査法人
 ・ワークライフバランスを重視したい:準大手または中小監査法人
 ・特定の業界に特化したい:その業界に強い中小監査法人
 ・独立開業を目指す:中小監査法人

監査法人で働くためのポイント

ここからは、監査法人で働くためのポイントとして、求められるスキルと注意点を解説します。

監査法人で求められるスキル

監査法人の主な業務は上場企業の会計監査です。監査業務は公認会計士の独占業務ですので、公認会計士資格を取得し会計基準への深い知識と理解が必須です。

さらに監査法人では複数のクライアントを同時に受け持つことが多く、それぞれのクライアントの状況や業務の性質に合わせて柔軟な対応が求められます。

また、クライアントとの信頼関係を築き、監査結果を分かりやすく説明するためにコミュニケーション能力も必要です。
チームで監査業務をおこなうケースが多いため、情報を共有しながら、効率的に監査を進めるためにも、コミュニケーション能力は欠かせません。

ただし、監査法人のすべての職種に公認会計士資格が必要なわけではありません。監査アシスタントやバックオフィスのスタッフなど、公認会計士資格がなくても働ける職種もあります。

監査アシスタントは、監査チームの一員として、監査資料の収集や整理、分析など補助的な業務を担当します。公認会計士資格は必須ではありませんが、会計や監査に関する専門知識、パソコンスキル、コミュニケーション能力など、必要なスキルは公認会計士と変わりません。

バックオフィスの職種とは、人事、経理、総務などです。これらの職種では事務処理能力やコミュニケーション能力などが求められます。

監査法人を志望する際の注意点

監査法人の採用スケジュールは短期間なことが多い
監査法人の採用スケジュールは、例年11月中旬にある公認会計士試験の合格発表後すぐに始まり、2週間ほどで選考、採用がおこなわれます。
短期間で選考が進められるため、合格発表前から志望動機や面接対策などの準備が必要です。

■決算の集中する3月が繁忙期となる
日本では3月決算の企業が多いため、3月から5月頃に業務が集中します。この時期は、残業時間の増加や休日出勤の可能性があることを覚悟しておきましょう。

■株式取引に制限がある
企業の非公開情報を利用して利益を得る「インサイダー取引」は、法律で禁止されています。
そのため、監査法人では外部に公開されていない企業の内部情報を扱うため、クライアントの株式を保有できません。また、監査法人によっては、社内規則で株式投資自体を禁止していることもあります。

まとめ

この記事では監査法人の業務内容、監査の種類、働くためのポイントなど幅広く解説しました。

監査法人は、企業の財務諸表の信頼性を担保し、健全な経済社会の実現に貢献する重要な役割を担っています。

このため、監査法人で働くためには、公認会計士資格だけでなく、専門知識、柔軟性、コミュニケーション能力など、さまざまなスキルが求められます。

監査法人に興味がある方は、公認会計士の資格取得を目指すとともに、監査法人の仕事内容や求められるスキルの理解を深めていきましょう。

この記事の監修者

伊藤之誉

長野県長野市出身。慶応義塾大学商学部卒業。1998年に国内最大手の税理士事務所(現デロイト トーマツ税理士法人)に入社後、上場企業から中小企業まで多種多様なクライアントに対する申告書作成業務、税務調査立会など法人の税務全般業務に従事。連結納税や国際税務のコンサルティング、個人所得税の申告書作成、税務デューデリジェンス業務にも従事。執筆、外部研修講師なども経験。2011年に伊藤之誉税理士事務所を独立開業 。軽いフットワークを武器に難解な税法をわかりやすくお伝えし、経営者の皆様と共に成長し、喜びをわかちあえることを理想としています。

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